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東京地方裁判所 平成6年(行ウ)353号 判決

原告

濱中文男

関塚清作

株式会社シンエイ

右代表者代表取締役

中平善久

右原告ら訴訟代理人弁護士

今村昭文

山崎善久

被告

青梅市

右代表者市長

田辺栄吉

右訴訟代理人弁護士

石川良雄

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  本件告示備考4に基づく本件戸別収集義務について

1  廃掃法によれば、市町村は、その区域内における一般廃棄物の適正な処理に必要な措置を講ずるよう努めなければならず(同法四条一項)、その処理に当たっては、一般廃棄物処理計画を定め(同法六条一項)、右一般廃棄物処理計画に従って、その区域内における一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集、運搬及び処分しなければならない(同法六条の二第一項)とされており、土地又は建物の占有者は、市町村の定める一般廃棄物処理計画に従い一般廃棄物を適正に分別し、保管する等市町村が行う一般廃棄物の収集、運搬及び処分に協力しなければならない(同条四項)とされている。

右のように、一般廃棄物の処理についての市町村の責務は、生活環境の保全及び公衆衛生の向上(廃掃法一条)といった公益を達成するために、市町村が公共サービスとして住民全体に対して負担する一般的な責務というべきものであり、市町村が右責務を負うことから特定の住民が自己の戸口からの収集を求める具体的な権利が発生するものではない。市町村がいかなる場所からどのような方法で収集するかといったような具体的な収集方法は、当該市町村の財政状況、地域の実情等を総合考慮して定められることになる市町村の一般廃棄物処理計画によって定まるものというべきであり、一方、建物等の占有者は、市町村の右処理計画に協力すべき責務を負うことになる。

前記第二の一のとおり、廃掃法六条、本件条例五条(改正条例二八条)及び本件規則二条(改正規則一五条)を受けて、市長は、一般廃棄物処理計画を定めて、本件告示によりこれを示しているものであるところ、〔証拠略〕によれば、本件告示に定められた被告におけるごみの収集方法は、原則として、ごみを可燃物と不燃物等とに区分した上、可燃ごみ用と不燃ごみ用とに分けて市長があらかじめ設置したダストボックスから定められた回数の収集をするというものであり、各戸ごとあるいは各共同住宅ごとに戸別にごみを収集することとはされておらず、住民は、ごみを投棄するダストボックスを特段指定されることはなく、何時でも何処のダストボックスにでも自由にごみを投棄することができることが認められる。

ところで、本件告示備考4は、指導要綱及び要綱細則により市長と締結した協議内容に基づき事業主が設置したダストボックスは市長が設置したダストボックスと同等の扱いとすると定めており、右によって設置されたダストボックスからは市長が設置したダストボックスと同様に収集するというものである。

そして、指導要綱は、同要綱及び要綱細則に掲げる事項のうち、該当するすべての事項について協議が整った場合に協議書を締結するものとしており(指導要綱第一章総則4)、そうした協議内容に基づき事業主がダストボックスを設置することにより、当該建物の居住者は、当該建物の敷地内の置場に設置されたダストボックスから実質的にごみを戸別に収集してもらえるという便宜を受けることになるものである。

そうすると、被告の定める一般廃棄物処理計画によれば、原則として、建物ごとの戸別収集は行わず、市長の設置したダストボックスからの収集とするものとし、例外的に、指導要綱等による協議が成立した場合には建物敷地内に設置されたダストボックスから収集され、実質的には建物ごとの戸別収集が行われることになるものであるが、右のような収集方法を定めることには特段の不合理はないというべきである。

2  この点につき、原告らは、本件告示備考4における「指導要綱及び要綱細則により市長と締結した協議内容に基づき事業主が設置したダストボックス」は「指導要綱及び要綱細則に基づき事業主が設置したダストボックス」と読み替え、事業主の設置したダストボックス置場が指導要綱及び要綱細則の定める基準に適合している以上、当該ダストボックス置場からの戸別収集義務が生ずるものと解釈すべきであり、そのように解さなければ、事業主に指導要綱等に基づく行政指導を強制する結果となり、また、禁反言の原則に反する旨主張する(なお、本件各置場にダストボックス自体が設置されていることの主張はない。)。

しかしながら、前記のとおり、本件告示備考4は「市長と締結した協議内容に基づき」という文言を用いて、協議の締結を前提としていることは明らかであり、指導要綱及び要綱細則に基づく協議の締結は、協議対象となる事項すべてにわたって協議が整った場合に市長と事業主との間で協議書を締結するという方法によっており、個別の事項ごとの協議の締結を予定していないことからしても、本件告示備考4は、協議事項につき一括して協議が締結された場合における事業主の事業に対する被告の協力の一環として、例外的に事業主が設置したダストボックスからの収集という便宜を図る取扱いをすることを定めたものと解されるのであるから、単に、指導要綱等に定める基準に適合するごみ収集施設を設置したからといって、当然に本件告示備考4に基づき右施設からの収集義務が生じているものとは解し得ないことは明らかである。

原告らは、ごみの処理とは関係のない協議事項についても定めている指導要綱等に基づく協議の成立を要するとすることは、指導要綱等に基づく行政指導を事業主に強制する結果になる旨主張するが、前記のとおり、被告の一般廃棄物処理計画においては、協議締結による事業主の事業への被告の協力の一環として例外的に当該建物の敷地内のダストボックスからごみの収集を行うものである以上、指導要綱等に基づく協議が締結されていない場合に、当該建物のダストボックス置場から戸別にごみが収集されないことは、被告の一般廃棄物処理計画上、むしろ当然のことであり、指導要綱等による協議締結に基づくダストボックスが当該建物に設置できず、そこからのごみの収集が行われないとしても、そのことは、当該建物の居住者が、その敷地内にダストボックスが設置された場合の利便を享受できないということにすぎず、原則どおりに、最寄りの場所にある市長が設置したダストボックスにごみを捨てることにより、ごみを収集してもらうことができるのであって、被告が、当該建物の居住者の排出するごみの収集を拒絶しているわけではないし、当該建物の居住者がその程度の負担をすることは、市町村の一般廃棄物処理計画に協力すべき責務からすれば、特段不合理なものといえないことは明らかであるから、本件各置場からごみを収集しないことが、行政指導を違法に強制するような行為であるとはいえない。

なお、原告らは、行政指導の強制の前提として、過去の同種の事案からみて、本件各建物の居住者が本件各建物の近くにある既存のダストボックスにごみを捨てようとすると、近隣住民とトラブルが生じるおそれがある旨主張するかのようであるが、〔証拠略〕によれば、本件各建物の周辺には、相当数のダストボックスが設置されていることが認められるところ、本件各建物の居住者がそうしたダストボックスを利用することが実質的に困難な状況にあると認めるに足りる証拠はなく、〔証拠略〕によれば、原告らの主張する過去の同種の事案における近隣住民とのトラブルとは、主として、原告会社の社員が共同住宅から排出されるごみをまとめてトラックで付近のダストボックスに運搬し、これを大量に投棄するなどしたため、ダストボックスからごみが溢れて近隣住民がごみを捨てられなくなったことなどに起因したものとみられること、被告は、廃棄物処理業の許可を得ていない原告会社がごみを収集し、運搬することは違法であるとして、原告会社に対し、そのような行為をしないよう指示したが、共同住宅の居住者が最寄りのダストボックスにごみを捨てること自体は禁止しておらず、ごみの増加に対する対策として、既存のダストボックスからの収集回数を増やし、その旨を近隣住民に説明する等の対策をとったことなどが認められるのであり、被告が共同住宅から戸別にごみを収集しないことにより、共同住宅の居住者の排出するごみの収集自体を実質的に拒絶することになるとはいえないし、共同住宅敷地内の施設からごみ収集がされることは、共同住宅居住者の利便を増すことになるから、共同住宅を建築しようとする者にとっても大きな関心事とはいえるが、そのことをもって、行政指導に従うことを違法に強制するものとはいえないというべきである。

また、原告らは、指導要綱等の遵守を求めるという形でダストボックス置場の設置を指導しておきながら、指導要綱等に適合するダストボックス置場からごみを収集しないということは禁反言原則にも反する旨主張する。しかしながら、被告ないし市長が、指導要綱等に適合するダストボックス置場を設置しさえすれば、右置場からごみを戸別に収集する旨明言して、右置場を設置させたような場合は格別、前示のとおり、本件告示備考4は、指導要綱等に基づくすべての協議事項について一括して協議が締結された場合における事業主が設置したダストボックスからの収集を定めているにすぎないとみられるのであるから、指導要綱等に定める公共施設等の整備等の一つとしてダストボックス置場の設置を指導し、右指導内容に適うダストボックス置場が設置されたからといって、右置場からのごみの収集をしないことが禁反言原則に反するものでないことは明らかである。

以上のとおり、この点についての原告らの主張はいずれも失当であり、本件告示備考4を読み替えて解釈すべきであり、本件各建物の本件各置場が指導要綱等に定めるごみ収集施設に適合している以上、被告に本件戸別収集義務があるとする原告らの主張は採用できない。

二  本件協議書の締結に基づく本件戸別収集義務について

原告関塚が、市長との間で本件協議書を締結したことは、当事者間に争いがないところ、原告関塚及び原告会社は、本件協議書の締結により、原告関塚が本件協議書に定めるダストボックス置場を設置すれば、当該置場から被告が家庭廃棄物を戸別に収集するという合意が成立している旨主張する。

しかしながら、前示のとおり、指導要綱等に基づく協議書の締結は、すべての協議事項について一括してなされるものであり、本件告示備考4による実質的な戸別収集が、協議締結による事業主の事業への被告の協力の一環として例外的に行われるものである以上、本件協議書の締結により何らかの合意がなされたとしても、それは、本件協議書に定める協議事項すべての履行がなされた場合に、本件二置場に設置されたダストボックスからごみを収集するという趣旨の合意であり、単にダストボックス置場の設置により被告に本件戸別収集義務が発生するという合意があったとは解し得ないものといわざるを得ない。

そして、原告関塚が、本件協議事項の一つである雨水浸透槽五基の設置については、これを履行していないことは当事者間に争いがないところであり、本件協議書の締結によって被告に本件二置場からの本件戸別収集義務が生じでいるとはいえないことは明らかである。

また、原告関塚及び原告会社は、雨水浸透槽については、既に三基を設置しており、本件二建物に降る雨水の処理は可能であり、指導要綱等の定める排水施設として十分機能するのであるから、本件協議事項の履行は実質的になされている旨主張するが、本件協議事項において定める公共施設等の内容は、別紙2のとおり、具体的なものであり、雨水浸透槽についても、その直径、有効深、基数が具体的に定められているのであるから、雨水浸透槽三基の設置をもって、これを履行したものといえないことは明らかであり、原告関塚及び原告会社の右主張は失当である。

三  改正条例に基づく本件戸別収集義務について

原告らは、改正条例においては、大規模建築物等について廃棄物の保管場所等の設置義務等を課する一方、被告に、右保管場所等からのごみの収集義務を課しているから、遅くとも改正条例施行後は、大規模建築物について改正条例の基準に適合する保管場所等を設置している以上、被告には、当該保管場所等からごみを収集すべき義務がある旨主張するかのようである。

しかしながら、改正条例及び改正規則は、大規模建築物について、これを建設しようとする者に、廃棄物の保管場所等の設置等を義務づけてはいるものの、他面、被告に、当然に当該保管場所等から廃棄物の収集を行うべきことを義務づける明文の規定はなく、前示のとおり、一般廃棄物の収集方法等を含む一般廃棄物処理計画については、依然として、市長がこれを定めて告示するものとしているところ、〔証拠略〕によれば、改正条例施行後においても、被告の一般廃棄物の処理計画は、本件告示に定めるものと何ら変わりがなく、ごみの収集方法については、従来と同様の方法をとっていることが認められる。

このことに照らせば、改正条例においては、従来は指導要綱等に基づく行政指導としての協議の対象にすぎなかったごみ収集施設の整備等を一般的な条例上の義務としているものであるが、収集方法については、そのことによって当然に右保管場所等からのごみの戸別収集を行うことにしたわけではなく、依然として、市長が設置したダストボックスからの収集を原則とし、例外的に指導要綱等による協議締結に基づいて設置されたダストボックスから収集を行うこととしているものと解され、現に改正条例施行後に収集方法が変更されたような事実を認めるに足りるような証拠もないから、改正条例における廃棄物の保管場所等の設置義務等の規定から、直ちに被告に本件戸別収集義務が発生することになるとはいえないというべきである。

確かに、改正条例は、六二条一項により、大規模建築物を建設しようとする者に廃棄物の保管場所等の設置義務及び届出義務を、同条四項により、大規模建築物の占有者に当該建物から排出される廃棄物を保管場所等に集めるべき義務を規定しているところである。しかしながら、廃棄物の保管場所等(とりわけ、保管設備)及び廃棄物の集積の方法は、その廃棄物の具体的収集方法と密接不可分の関係にあり、改正条例による保管場所等の設置義務及びそこへの集積義務が、当該場所から被告が廃棄物を収集すべき具体的義務があることを当然の前提としているのであれば、設置義務を負う保管場所等の具体的内容等を市長が定めるべき当該具体的収集方法に適するよう具体的に定める必要があるところ、大規模建築物について設置すべき廃棄物の保管場所等の設置基準は一般的に定められており、必ずしも現に市長が具体的収集方法として定めているダストボックスによる収集方式に適するようなものとなっておらず(〔証拠略〕によれば、改正規則五二条三項は、右保管場所等の設置基準は、事業系一般廃棄物の保管場所の設置基準を定める改正規則二一条によるもののほか市長が別に定めることとされているが、設置基準を限定するような右定めはなく、改正規則二一条は、一般的な基準を定めている。)、むしろ、改正規則二一条八号が被告が実施する収集、運搬等の業務の提供を受ける場合に限って、被告の収集運搬作業の方法に適合するものであることを規定していること、改正規則五二条二項ただし書により、被告の一般廃棄物処理業務の提供を受けない者には保管場所等の届出義務がないものとされており、被告の一般廃棄物処理業務の提供を受ける場合とそうでない場合を区別していること、集積義務の規定も一般的な規定の仕方になっていることなどからすれば、改正条例が保管場所等の設置義務を規定した趣旨は、多量の廃棄物を排出することが予想される大規模建築物を建設する場合には、現に行われている具体的な廃棄物の収集方法にかかわらず、廃棄物の保管場所等を設置しておくことが望ましいことに加えて、所定の手続等により右保管場所等からごみの収集がされる場合があり得ることから、これを大規模建築物の建設者の一般的な義務として規定しているものと解すべきであるし、また、大規模建築物の占有者の廃棄物の集積義務を規定した趣旨も、公衆衛生の見地から、占有者がみだりに廃棄物を放擲することなく、具体的収集方法に応じて、廃棄物を集積するという一般的な義務を規定したものと解すべきであり、当該保管場所等において被告の一般廃棄物処理業務の提供を受ける場合はもとより、その提供を受けない場合でも、建設者等が自らこれを処理するような場合であれば、廃棄物をみだりに放擲することなく、当該保管場所等に集積をすることが要請されるが、そうでない場合においては、右規定によっても当該建物の占有者が市長のあらかじめ設置したダストボックスにごみを投棄すること自体は何ら禁じられていないと解することができる。したがって、改正条例における廃棄物の保管場所等の設置義務等の規定をもって、設置基準を満たす当該保管場所等から被告が戸別に収集すべき義務を負うことが当然の前提となっているものとまではいえないというべきである。

以上のとおりであるから、遅くとも改正条例施行後は、被告が本件戸別収集義務を負うとする原告らの主張は採用できない。

四  以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとする。

(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 竹田光広 岡田幸人)

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